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令和5年度研究テーマ
国等からの外部資金による研究(特別電源所在県科学技術振興事業)
窒素を活用した熱処理技術の高度化
純鉄および冷間圧延鋼板を対象に、熱処理温度・時間・導入ガス雰囲気中のアンモニア濃度を変化させた浸窒焼入れを適用し、それぞれの条件下で形成する金属組織観察ならびに硬さ試験を実施した。その結果、処理条件により表面に形成する組織が変化し、マルテンサイト組織の硬さも変化することがわかった。さらに鋼種によっては、表面硬化熱処理法として浸窒焼入れを適用できる上限温度が存在することが示唆された。
ゴム材料の劣化に伴うナノ構造変化に関する研究
加硫ブタジエンゴムにおいて熱酸化に伴うナノスケールの力学物性の変化を原子間力顕微鏡を用いて調査した。ナノスケールにおける弾性率は低下した後に増加する挙動を示した。弾性率の低下は分子鎖の切断、弾性率の増加は分子鎖の架橋反応を反映していることが考えられる。このナノスケールの変化挙動は、マクロな力学特性である貯蔵弾性率およびパルス法NMRで得られる分子運動性と同様の変化挙動を示した。
シミュレーションを用いたマルチマテリアル化と構造最適化による軽量化技術の開発
PP素材とアルミ素材のマルチマテリアル化について検討した。大気圧プラズマ処理によりPP表面にカルボキシル基を導入することで、表面自由エネルギーが高くなるとともに接着強度が向上することを確認した。PP表面の分子シミュレーションを行ったところ、表面に導入する官能基の種類・数・向きが表面自由エネルギーに影響を及ぼすことが分かった。アンカー効果に着目し、アルミ表面に形成する穴形状についてノンパラメトリック形状最適化を利用した最適化に取り組んだところ、穴の直径や深さを変化させることで強度を維持しつつ軽量化を伴う計算結果を得た。
県単独で実施している研究
河川に整備したアユ産卵場のモニタリングに適したDX支援機器の開発
河川内に整備したアユ産卵場における遠隔モニタリングシステムの独立稼働時間の延長を目的として、画像撮影とデータ送信に関するソフトウェアの改善、機器の省電力化、バッテリの大容量化を行った。フィールド試験を行った結果、従来よりも4倍以上に独立稼働時間が延長し(14日間以上)、このソフトウェアと機器の組み合わせでアユの産卵を遠隔モニタリングできることを確認した。
牛体データと機械学習を用いた高精度な体重推定
子牛の体重を高精度に推定するためは大量の子牛の形状データが必要となる。昨年度構築した非接触牛体システムを畜産研究所に設置し、毎月約30頭の子牛の形状データを測定することで学習用のビッグデータを構築した。また、ビッグデータを活用して高精度に体重推定を行うために回帰分析と機械学習を用いた体重推定用プログラムを作成した。実測と比較した結果、従来より高い精度で牛の体重を推定できたことから、本システムの有効性を確認できた。
熱溶着による銅箔接合樹脂板の高周波プリント基板への適用検討
本研究では、難接着性であるポリプロピレンに銅箔を熱溶着させることにより、高周波特性の優れたプリント基板を構成することができた。本製法では、通常のプリント基板では接合困難な表面粗さの銅箔の貼り付けが可能であった。また、高周波の伝搬特性に関して、ポリプロピレンを基材とすることにより、通常のプリント基板と比較して約1/3の伝搬損失となることが確認された。
デニム製品の高付加価値化のための評価技術に関する研究
デニム製衣服の着用時に長期間かけて生じる変化を再現し、評価する手法の確立を目指し、研究をおこなった。変化の再現に関して、三次元スキャナを用いて生地の変形を詳細に解析し、その解析結果から繰り返し試験を行うことを検討した。また、評価手法では、引張り特性と摩擦特性について検討し、製造現場で問題となる劣化にも適用可能な測定レンジのストレッチ性評価手法を確立した。
バイオマス素材の活用技術に関する研究
AFM弾性率マッピングとパルス法NMRにより、天然ゴム/CNF複合体中のゴム/CNF界面の評価が可能であることを明らかにした。X線回折により、天然ゴム中のCNFの配向状態を定量評価するため、配向関数を導入し、配向状態と引張物性の相関を明らかにした。
生産機によるナノセルロースと銀粒子複合体の合成条件(濃度、前処理温度、反応温度、反応時間、処理回数など)を検討し、量産化に成功した。
企業の皆さまと共同で実施している研究
繊維製品の高付加価値化と環境負荷低減を両立した染色加工技術の確立
環境負荷低減染色加工技術の確立を目的に、精練後排水をそのまま染色工程に再利用して排水処理量削減する研究を実施した。精練排水に含まれる成分・量を解析し、染料添加時に凝集する染料の種類・構造を明らかとした。さらに再利用するための添加剤を見いだし、ムラなく均一に染色する技術を確立した。
表面特性や設計手法の高度化による新製品・新技術の開発
本研究で取り組んだ表面特性の高機能化では、フェムト秒レーザによりポリアセタール基板上に規則的に微細溝を形成することで、摩擦量を1/3以下まで低減させることに成功した。一方、設計手法の高付加価値化では、実機と同様の制御回路を有する解析において、駆動電流の高調波成分の重畳による損失の悪化を明確にできた。
マルチフィジクス解析を用いたシミュレーション技術の高度化
複数の物理現象を組み合わせて考慮するマルチフィジクス解析を活用し、高精度で計算コストが低減できるモデル化法を検討した。隙間のある複雑形状の構造最適化では、固形物の乾燥を対象とし、直方体に円筒状の孔を規則正しく並べ、同一の物性値で表す簡易モデルを作成した。音響性能の予測では、弾性材料を積層した吸音材料において、骨格の振動を考慮した吸音性能の予測法を開発した。
伝統的な清酒製造工程の評価と製造技術の安定化に向けた研究開発
清酒製造現場における伝統的な製造工程の各要素技術について、特性評価と科学的検証を進めた。生もと造りの包括的な特性評価では、生もと試料からの微生物の単離同定と菌叢解析の実施、生もとに利用可能な一部の微生物候補株を選抜した。雄町を原料とした麹の特性評価では、試験製麹のための原料処理条件を決定した。槽による上槽工程の評価では、上槽前と上槽最後の香気成分と一般成分について評価した。
高分子材料の診断技術の高度化に関する研究
製造業では、生産性向上や開発高分子材料の診断技術の高度化に関する研究の短期化への要求から、CADやCAEを活用し、効率的な製品開発を行うデジタルものづくりへの変革が進展している。しかし、製品の高付加価値化に伴って様々な物理現象が相互に作用し、十分な精度で予測できない問題が生じている。本研究では、複数の物理現象を組み合わせて考慮するマルチフィジクス解析を活用し、高精度で計算コストが低減できる解析技術を開発する。本年度は、相互に影響を及ぼし合う物理現象の関係性を解明する。