腸管出血性大腸菌とは
大腸菌は人及び動物の腸管内に常在し、成人糞便中に千万から百億個/g存在します。大腸菌には非病原性のものと病原性のものがあり、このうち水や食品を介して経口的に摂取され腸管で病原性を示すものを下痢原性大腸菌といいます(電子顕微鏡写真提供:国立感染症研究所)。これらはその病原性により以下のように分類され、腸管出血性大腸菌はこのうちの一つです。
1 腸管病原性大腸菌
2 毒素原性大腸菌
3 腸管侵入性大腸菌
4 腸管出血性大腸菌
5 腸管凝集性大腸菌
分布
腸管出血性大腸菌は世界中に分布しており、牛(特に子牛)の保菌率が高く、ヒツジ、ヤギ、ブタ、イヌ、ネコ等も保菌しています。
感染経路
保菌動物の糞便中に排泄された菌が直接あるいはハエ等を介して食肉、野菜等の食品や水・土壌を汚染します。この汚染された食品を食べたり水や土壌および患者・保菌者の便から手指を介して菌が口から入ると、大腸へ達した菌はここで病原性を発揮します。
感染菌量
普通の食中毒原因菌による感染発症には十万個から千万個の菌量が必要なのに、数十個から数百個の菌で感染・発症するため、ヒトからヒトへの感染も成立します。
症状
菌の大腸への定着・ベロ毒素の産生により、腸管に細胞障害や腸管毒性を示して出血性大腸炎が起こります。これにより激しい腹痛、出血を伴う下痢を起こしますが、比較的発熱することは少ないようです。症状は、年齢や基礎疾患の有無等、免疫機能や体力の差によって程度は異なります。ベロ毒素が血流中に入り全身にまわった場合には、腎障害による溶血性尿毒症症候群や意識障害・昏睡等の脳症等重症化することがあり、さらに悪化すると死に至ることもあります。このような重症例は幼児や高齢者、また女性に多い傾向があります。
感染予防および治療
食品は充分加熱調理し、生食する野菜などはよく流水で洗ったものをいずれも早めに食べ、井戸水等の未殺菌水は、煮沸消毒してから飲むようにします。手指は石鹸で充分洗った後、流水でよく洗い流します。
腸管出血性大腸菌感染患者の看護等により感染のおそれのある場合は、手洗い後さらに逆性石鹸や消毒用アルコール等の消毒剤で手指の消毒を行う必要があります。また、患者が使用したトイレや風呂場等の消毒も適宜行う必要があります。腸管出血性大腸菌に感染した場合は、感染初期の抗生物質の投与が有効であると言われているので、激しい腹痛や出血性の下痢を起こした場合はもちろんのこと、特に重症化しやすい幼児や高齢者の場合には下痢・腹痛・風邪様症状等でも不安を感じたときには早めに医療機関を受診することが大切です。
何よりも”予防に勝る治療なし”を心掛けてください。